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1.後見業務ファイル(1)

私から後見業務を奪った裁判所の判断を非難するために、私がやってきた後見業務の中で、印象深い事案をご紹介します。


被後見人は1人暮らしの女性で、夫は10年以上前に亡くなっています。 亡くなった夫との間に子供はいません。 自宅は築50年以上のマンションで、約40年前に前の所有者から夫名義で購入したものでした。 私が後見人になったときは、1人暮らしも限界に近く、マンションを処分して施設に入るのが相当という状態でした。 そのマンションの登記事項が下の画像です。(クリックで拡大)


  


なかなか気が付かないと思いますが、困った問題がありました。 このマンションには敷地として3筆の土地がありますが(画像の上の赤マル)、この人の専有部分の敷地利用権は2筆分しかありません(下の赤マル)。 つまり、本来は使えない土地の上に部屋を持っている理屈になります。 ただでさえ老朽化して売りにくいマンションなのに、敷地利用権に問題がある状態では買い手がつかないでしょう。


さらに、本人達に子供がいないということは、夫の兄弟やその相続人を探して、遺産分割協議を成立させなければなりません。 正直、途方にくれました。


なぜ敷地利用権がないかというと、夫が購入したときに、登記に携わった司法書士が、1筆分の土地の持分移転登記を失念したのです。 現在、2筆の土地については敷地権登記がされており、建物の移転登記をすれば、土地の利用権も同時についてきます。 昔は敷地権という制度がなく、土地はマンション全体の所有者全員の共有となっていて、各自が何分のいくつという持分を持っていました。 途中で敷地権の登記がされたときに、持分のあった2筆は敷地権化されましたが、持分のない1筆は除外されてしまったのです。


とにかく閉鎖登記簿を取得し、前の所有者(売主)を調べました。 するとやはり、1筆の土地には売主の持分が残っています。 この持分を、まずは亡夫の名義に変えなければなりません。


幸い、当時の売買契約書と登記済権利証は探し出すことができました。


登記済権利証から犯人の司法書士も判明しました。 この司法書士は、夫が亡くなったときに相続登記を依頼されたようで、その頃の領収書も残っていましたが、なんと、夫の除籍謄本を取得しただけでした。 それで3万円の報酬をとっています。 おそらく、自分のミスに気が付き、どうしていいかわからずに、適当なことを言って放置してしまったのでしょう。 探して責任をとらせようと思いましたが、既に司法書士の登録はありません。 事務所の住所も空き地になっていました。 もう死んでいるか、生きていたとしてもかなりの高齢で、見つけても何もできないでしょう。


無能な者にこだわっても前に進みません。 まず考えたのは、「真正な登記名義の回復」で登記ができないかということです。 これができれば一番楽ではないかと考えたのです。 しかし周囲の司法書士に聞いても、無理があるとのことでした。 ではどうすればと聞いても、売主かその相続人を探して普通に売買による移転登記をすべきとのことでした。 そんなことはわかっていますが、現実に難しそうだから相談したのです。


考えていても仕方ないので、まずは売主の所在を調べることにしました。 登記上の住所を住宅地図で見ると、大きなマンションが建っており、どうやらそこには住んでいなさそうです。 何しろ売買は昭和52年です。もう売主が生きてない可能性も高いです。 行政書士業務ならば、職務上請求書を使って簡単に住民票をとれるのですが、今回は使えません。 役所への申請書に長々と理由を書いて、登記事項証明の写しやら何やらと疎明資料をつけて申請すると、案の定問い合わせが来て、そこでまた長々と説明してようやく理解してもらいました。 しかし、その住所に住民票はありません。


ここまできて考えたのは、持分移転登記手続請求訴訟を提起して、訴状も判決も公示送達してもらい、確定判決により単独で移転登記をするという手段です。 というより、他に手は無いでしょう。 行政書士仲間にこの件を話したところ、土地持分の時効取得ができるのではないかと言われました。 ところがその案には反対です。理由は、
・時効取得の要件は排他的占有であるが、マンション敷地持分に排他的占有という概念は難しい
・時効取得は一時所得とみなされて所得税の課税対象となる
・売主が所有権を有しているとすると不在者財産管理人を選任する必要があるかもしれない
ということです。 時効取得でも、結局は訴訟が必要ですから、単に手続上の瑕疵として移転登記手続請求をする方が、実態と適合します。


何はともあれ、売主の不在住証明書を取得し、住所地を訪ねて調査報告書を作成し、提訴することとしました。


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